- アディへ -
ずっとずっと長い時間。私たちは一緒に過ごして来たね。
私たちは家族だったけど、恋人にはなれなかったね。
私はずっと貴方の隣にいたけど、貴方はずっと他の人を見てたね。
だから私ずっと、苦しかったんだよ。
だって、貴方に出会ったあの時から、私は貴方の事が好きだった。
でも、叶わない恋だって、最初からちゃんと分かってたよ。
貴方は私を誘拐しに来た、誘拐犯で、
私は塔の中に閉じ込められていたお姫様。
恋人になんて、なれっこなかったんだわ。
小さな塔の最上階にある、窓の無い部屋。
私はただ寝台の上に鎖で繋がれて、太陽が沈むとやって来る人に弄ばれる。
分からなかった。痛みも、悲しみも、苦しみも、何も無かった。そういう物なのだと受け入れていた。
貴方に出会うまでは――――
「一緒に逃げよう?」そんな感じだったのかな。
太陽が五千回以上も登っては沈んだある日、貴方は現れた。
あの時の私は言葉を知らなかったから、本当は貴方が何て言ったのか、知らないの。
兵士たちに囲まれた時、私の前に立って、守ってくれた、私よりも小さな背丈、
その小さな背中に、私は全てを賭けた。崖から飛び降りた時は、もうダメかと思ったけど。
あの日の事は、今でも鮮明に覚えている。
あれから私は、貴方に色んな事を教えてもらった。貴方が私の世界を動かした。私の世界に彩りを加えた。
楽しい事も、辛い時も、貴方が傍にいた。たとえ貴方が他の誰を見ていようと。
いつから?
少しずつ、少しずつ。
私が変わってしまったのは。
どうして?
貴方を心のどこか、許せなかった。
苦しかった。
貴方がいつも、私に気を遣ってたのわかってた。
私を傷つけないように、振舞ってくれてたの知ってたよ。
そんな貴方を、ずっと、見てた。
アディ。ごめんね。私、弱くて。
シグマは分かっていたんだね。
彼はいつも敵だったけど、私の気持ちを理解してくた様な気がして、嬉しかったの。
ジャンヌを殺そうとしたけど、あれは私の中に元々あった感情。
私は貴方に愛されているジャンヌが、羨ましかった。
心のどこかで恨んでいた。
いつまでも貴方の傍で、支えてあげたかった。
でももうそれも叶わない。
シグマを殺したって同じ。だってこれは私の弱さだもの。
にっこり笑う事は、もう出来ない。
貴方を傷つける私になるくらいなら、貴方を許せない私になってしまったから、死んだほうがまし。
楽しかった。
アディ、貴方に出会えて、本当に楽しかった。
夢は叶わなかったけど―――それでも――――
* * *
私はジャンヌの腰から短剣を抜くと、そのままそれを振り上げた。
ジャンヌ。貴女だけは私を許さないで。私を殺して。
少し痛かったけど、でも平気。
生きていた時の方が、何倍も痛かったから。
今、私の中から痛みや苦しみが消えていくのがわかった。
これが世界の終わり。
初めて見る景色。
世界はこんなにも・・・・・・・・・・・・綺麗だったのね。
あぁジャンヌ、貴女が見える。
ジャンヌ、アディをよろしくね。
アディの願いを―――――――叶えて
これで満足。
そうして私は、私の意識を手放した。